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歯が割れていて抜歯と診断された方へ

歯が割れていて抜歯と診断された方へ

― 割れた歯を“接着して残す”という新しい選択 ―
接着療法(せっちゃくりょうほう)

「歯が割れた」と言われても、抜歯を回避できる可能性があります

「歯が割れているから抜くしかない」と言われたとき、多くの方がショックを受けます。

近年、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)と接着技術の進歩によって、これまで抜歯とされてきた割れた歯でも、“残す”ことができる可能性が広がっています。

それが「接着療法」です。

接着療法とは?

歯が破折した場合、通常は【抜歯】と診断されます。

この接着療法は歯が破折していても抜歯をせず、特殊な接着剤で固定する治療法です。

まずは精密根管治療を行い、歯の破折部分を確認し(図1-a)、湿った口の中でも強固に付く医療用接着剤「スーパーボンド(4-META-TBB系)」を使い、顕微鏡下で破折線を確認しながら、歯を“もう一度ひとつの塊”として修復します。

この治療によって、抜歯をしてインプラントやブリッジに移行する前に、自分の歯を残せる可能性があります。

歯の破折の深さや位置によって、治療のアプローチは以下の3つに分かれます。

① 口腔内接着法(こうくうないせっちゃくほう)(図1-b)
口腔内接着法とは、歯を抜かずにそのまま口の中で接着する方法で、顕微鏡を使って破折部を確認しながら、スーパーボンドで精密に固定します。
比較的軽度の破折に適しています。
② フラップ併用接着法(ふらっぷへいようせっちゃくほう)(図1-c)
フラップ併用接着法とは、歯肉を少し開いて視野を確保しながら接着する方法で、根管内からは見えない深い部分まで清掃・接着できる方法で、口腔内接着法を行ってもよくならなかった場合にフラップ併用接着法を行います。
③ 口腔外接着再植法(こうくうがいせっちゃくさいしょくほう)(図1-d)
口腔外接着再植法とは、完全に破折していることがレントゲンで確認出来て、口腔内接着法やフラップ併用接着法で治療が出来ない場合、一度歯を抜いて、口の外で破折部を接着・補強したあと、元の位置に戻す(再植する)方法で、重度の破折でも、歯の周囲の組織が健康な方であれば成功する可能性があります。

接着療法とは?

その症状、お口の中に原因があるかもしれません。

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治療の流れ

治療の流れ

破折歯の接着治療は、単に「ボンドでくっつける」だけではありません。
根管治療大阪クリニックでは、世界で最も権威あるAAE(米国歯内療法学会)のスペシャリストが高周波治療モジュール・Er-YAGレーザーを用いて、根管内の感染を取り除き、清潔で出来る限り乾いた環境を整えたうえで、精密に接着・補強・修復を行う工程が必要です。

01.まずは根管治療で感染を取り除く(図1-a)

歯の内部(根管内)にある神経や古い薬剤、細菌を取り除きます。
この工程を怠り、感染部が残っていると接着を試みても、後から感染が再発して接着部がダメになることがあります。

マイクロスコープで根の中を確認しながら、細い器具で丁寧に洗浄・消毒します。
破折歯の治療は、この“環境づくり”が最も重要です。

02.破折面の清掃と除菌(図1-a)

破折部には、古いセメントや軟らかくなった歯の組織(感染した軟化象牙質)が残っていることが多くあります。
この部分を完全に除去しないと、接着剤がうまくつかず成功率が下がります。

そのため、う蝕検知液(感染部を染める液)を使って感染した部分を見分け、染まった部分を丁寧に取り除きます。

03.破折の位置と深さを診断(図1-a)

レントゲン写真や様々な検査や、マイクロスコープによって、破折の範囲を正確に確認します。

  • 歯ぐきの上で割れている
  • 歯ぐきの中まで割れている
  • 根の先まで割れている

など大きく分けて3パターンの割れ方があります。
また、縦割れなのか、横割れなのかを判断します。

その歯の状態に応じて、

  • 口腔内接着法
  • フラップ併用接着法
  • 口腔外接着再植法

これら3種類の方法から、最も適した方法を選びます。

04.顕微鏡下で破折線を整える(ソルフィーF使用)

破折面を整えるために、ソルフィーFという超音波機器を使用します。
この機器には“根管長測定機能”が内蔵されており、削る先端が歯根膜(歯を支える薄い膜)に触れると自動的に停止する安全設計です。この機能はソルフィーFにのみ、搭載されています。

これにより、過剰に歯を削らず、必要な部分だけを安全に削り、破折線を明瞭にできます。

05.歯の中から接着を試みる(図1-b)
(状態によっては口腔内接着法を行った後フラップ併用接着法も試みる)

破折線が確認できた場合、まずは歯の内側(根管内)から接着を試みます。
顕微鏡で歯の中を観察しながら、ヒビの部分に接着剤を流し込み、内側から補強していきます。

ただし、破折が深く、破折線の位置が見えにくい場合には、口腔内接着法を行った後、後日に歯肉を少し開いて(フラップ併用接着法)治療を行うこともあります。(図1-c)

フラップ併用接着法を行うことで、破折部を歯の外からも清掃・接着でき、口腔内からだけでは接着出来ない部分も接着を試みます。

清掃が完了したら、歯の内部を乾燥させ、スーパーボンド(4-META-TBB系)をシリンジで慎重に注入します。接着剤は混ぜるとすぐに固まり始めるため、数十秒の間に破折部をぴったりと合わせて歯の中をスーパーボンドで満たします。

レントゲンに写るタイプの接着剤(スーパーボンド)を使うと、 レントゲンで状態をきちんと視認することができます。

06.ポスト(支柱)の接着と補強

接着後、歯の内部にファイバーコアという土台を築造し、歯を補強します。
ファイバーコアは歯に近い弾力性を持ち、再破折のリスクを少しでも下げる働きをします。

07.フラップ併用接着法や口腔外接着再植法を行った場合と最終修復

フラップ併用接着法を行った場合は、接着が完了したあとに歯肉を元に戻して縫合します。
数日で安定し、歯ぐきは自然な形に戻ります。

口腔外接着再植法(図1-d)を行った場合は、隣の歯と固定をします。

状態によって頻度や回数は異なりますが、数週間〜3ヶ月程、経過観察を定期的に行います。
経過観察を行い、よくなっていればセラミックなどの最終の被せ物を装着して治療は完了です。

いずれの方法でも良くならなかった場合には、抜歯と言う治療法を選択しなければいけないこともあります。

その症状、お口の中に原因があるかもしれません。

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成功率と予後

「接着療法(根管内接着療法)」は、これまで抜歯と診断されていた歯を保存できる新しい選択肢ですが、
すべてのケースで成功するわけではありません。
成功率や予後は、破折の位置・深さ・感染の有無・歯根膜の状態・噛み合わせの力・術者の技術など、さまざまな要因によって変わります。

「接着療法」に関する報告では、以下のような結果が示されています。

  • 成功率と予後
  • 成功率と予後

北海道大学:230症例

これらの報告から、破折後の早期対応と無菌的処置の徹底が成功率を高める鍵であることが分かっています。

治療後の予後について
  • 治療直後の痛みや違和感は通常数日で落ち着きますが、歯ぎしりや強い噛みしめによって再び破折する場合があります。
  • 歯の周囲の骨(歯槽骨)や歯根膜が健康であるほど、長期的に安定しやすい傾向があります。
  • 感染を伴う症例では、破折部に細菌が残存することで再感染が起こり、再治療が必要になる場合があります。
  • 適切なブラッシング・定期的な咬合調整・ナイトガードの使用など、治療後の管理が非常に重要です。
  • 歯の状態(破折の深さ・感染の有無・歯根膜の健康状態など)によっては、治療後の経過が異なります。
  • すべての症例で保存が可能になるわけではありません。

この治療が向いている方

この治療が向いている方

  • 抜歯しかないと言われたが、できれば自分の歯を残したい
  • 差し歯が何度も取れる・噛むと痛い
  • インプラント以外の選択肢を探している
  • 根管治療をしても違和感が続く

その症状、お口の中に原因があるかもしれません。

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費用の目安(税込)

治療内容 費用
精密検査・診断 22,000円
精密根管治療 110,000円~198,000円

+

口腔内接着療法 11,000円
フラップ併用接着療法 33,000円
口腔外接着再植法 55,000円

+

ファイバーコア補強 33,000円
セラミック補綴 143,000円〜176,000円

※自由診療(保険適用外)
※医療費控除対象
※デンタルローン・分割払い対応

<リスク・副作用について>

  • 接着した歯が再び破折する可能性があります。その場合は抜歯になることがあります。
  • 治療後も噛み合わせや歯ぎしりの影響で痛み・違和感が出ることがあります。
  • 感染の再発により再治療や抜歯が必要になる場合があります。
  • 歯肉を開いて行う治療(フラップ併用法)の場合、術後に一時的な腫れや出血、また疼痛が出ることがあります。
  • 使用する薬剤(接着材や消毒薬など)に対して、稀にアレルギー反応が起こる可能性があります。
  • 歯の揺れがある場合や骨欠損が大きかった症例は、隣在歯との連絡が必要となることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q 保険は使えますか?
保険診療には存在しない治療法で、特殊な接着剤や機材を使うため保険適用外ですが、医療費控除の対象になります。
Q 痛みはありますか?
麻酔を使用するため治療中の痛みはほとんどありません。
Q 接着したら、どのくらい持ちますか?
状態や噛み合わせにもよりますが、5〜10年以上安定する例が多く報告されています。
Q 他院で「抜くしかない」と言われましたが、相談できますか?
もちろん可能です。まずはカウンセリングにてお話をお聞きし、検査と診察を行い、歯を残せる可能性を診断します。

最後に

治療の流れ

抜歯をすすめられたその歯にも、「抜歯せずに残せるチャンス」がまだ残っているかもしれません。

接着療法は、歯を守るための“最後の砦”です。
治療がすべてのケースに適応できるわけではありませんが、「残す努力」をして初めて見える未来があります。

まずは一度、当院にご相談ください。

その症状、お口の中に原因があるかもしれません。

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出典

  • 歯根垂直破折の接着治療後の歯周治癒
    Periodontal healing after bonding treatment of vertical root fracture. Dental Traumatology, 2001.
  • 4-META/MMA-TBBレジンとセメント質の接着耐久性
    Durability of adhesion between 4-META/MMA-TBB resin and cementum. Dental Materials Journal, 2004. (田中裕子・菅谷 勉・川波将光)
  • 垂直歯根破折の破折線を根管側から接着封鎖した後の歯周組織修復(ビーグル実験)
    Periodontal tissue repair after sealing of the gap in vertical root fracture. Odontology, 2017. (菅谷 勉 ほか)
  • 根管側からの垂直歯根破折の破折線封鎖(後ろ向き臨床研究)
    Sealing the Gap of Vertical Root Fracture through the Root Canal. Dentistry (Open Access), 2016. (Sugaya T. ほか)
  • 4-META/MMA-TBBレジンによる感染根管の治療(総説)
    Treatment of infected root canals with 4-META/MMA-TBB resin. Hokkaido Journal of Dental Science, 2017. (菅谷 勉 ほか)
  • 歯根端切除後の逆根管充填材としての4-META/MMA-TBBレジンの臨床評価
    Clinical evaluation of 4-META/MMA-TBB resin as a root-end sealant following apicoectomy. Journal of Conservative Dentistry (日歯保存誌), 2002. (菅谷 勉 ほか)
  • 根分岐部穿孔の4-META/MMA-TBBレジン修復後の歯周治癒の病理組織学的評価
    Histopathological evaluation of periodontal healing after treatment of furcation perforations with 4-META/MMA-TBB resin. Journal of Conservative Dentistry (日歯保存誌), 2000. (山本 徹・菅谷 勉・加藤 寛)※原著引用より。
  • 根分岐部穿孔の4-META/MMA-TBBレジン修復の臨床評価
    Clinical evaluation of furcation perforation treatment with 4-META/MMA-TBB resin. Journal of Conservative Dentistry (日歯保存誌), 2004. (山本 徹・菅谷 勉・加藤 寛)
  • 根管側からの機械的+化学的拡大が4-META/MMA-TBBレジンによるVRF破折線封鎖性に及ぼす影響
    The effect of mechanical and chemical enlargement through the root canal on sealability of vertical root fracture gap using 4-META/MMA-TBB resin. Hokkaido Journal of Dental Science, 2015. (西尾 貴英・菅谷 勉・川波将光)
  • 電気式根管長測定器を併用した超音波研削が垂直歯根破折の封鎖性改善に与える影響
    Ultrasonic grinding of vertical fractured gap surfaces using an electric apex locator and the effect on improving sealing ability of vertical root fracture. Hokkaido Journal of Dental Science, 2013. (川端 伸也・菅谷 勉・川波将光)